社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


 

 年金機能強化法により、近い将来の年金の仕組みはこうなる。(その3) 

6.低所得高齢者・障害者等への福祉的給付措置、高所得者の年金額調整、1号被保険者の産前産後期間中の国民年金保険料の免除の検討  (原案に追加して附則に明記)  
(1)全体に関する3年後の検討(附則2条1項)
 「政府は、この法律の施行後3年を目処として、この法律の施行の状況を勘案し、基礎年金の最低保障機能の強化その他の事項について総合的に検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」
(2)低所得高齢者・障害者等への福祉的給付措置(附則2条の2)
 「税制抜本改革の施行時期(消費税8%化)の施行の日から、公的年金制度の年金受給者のうち、低所得である高齢者又は所得が一定額以下である障害者等に対する福祉的措置としての給付に係る制度を実施するため、税制改正法の公布日(24年8月22日)から6か月以内に必要な法制上の措置が講ぜられるものとする。
 この場合において、その財源は、税制改正により増加する消費税の収入を活用して確保するものとする」
年金生活者支援給付金の支給に関する法律によって実現化
(3)高所得者の年金額調整(附則2条の3)
 「高額所得による老齢基礎年金の支給停止については、引続き検討が加えられるものとする」
(4)1号被保険者の産前産後期間中の国民年金保険料の免除
 「国民年金の第1号被保険者に対する出産前6週間及び出産後8週間に係る国民年金の保険料の納付義務を免除する措置については、検討が行われるものとする」


7.その他の規定(給付関係)の改正
 交付の日(24年8月22日)から2年以内の政令で定める日から施行
7.1 未支給年金の請求範囲の拡大(国民年金法19条、厚生年金保険法37条の改正)
 「年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の3親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を名で、その未支給の年金の支給を請求することができる」
 「同3項 未支給の年金を受けるべき者の順位は、政令で定める」
⇒従来は生計同一の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹という限定列挙であったが、改正後は、これに加えて、生計同一の3親等以内の親族にまで拡大する
 すなわち、
・未支給年金を請求できる者は、生計同一の3親等内の親族とする。
 これにより、おじ、おば、おい、めい、ひ孫、ひ祖父母、及びこれらの者の配偶者(子、孫、兄弟姉妹の配偶 者も含む)等も請求可能に。
・受給順位の判定が複雑になるので政令で定めることに。

7.2 繰下げ支給(国民年金法28条、厚生年金保険法44条の3の改正)
 「66歳に達した日後に次の各号に掲げる者が繰下げ支給の申出をしたときは、当該各号に定める日において、申出があつたものとみなす
 @70歳に達する日前に他の年金たる給付の受給権者となつた者:受給権者となつた日 
 A70歳に達した日後にある者(前号に該当する者を除く):70歳に達した日
⇒従来は、70歳を過ぎて繰下げを申出した 場合、70歳到達時点で年金額の増額が終了するだけでなく、申出のあった日の属する月の翌月分以降の年金しか支給されなかった(貰い損ねが発生していた)。   
 改正後は

・70歳過ぎてから繰下げ支給の申出をした場合であっても、70歳に達した日に申出があったとみなし、70歳到達月の翌月分から遡って支給される。(5年以内であれば、貰い損ねが発生しない)

7.3 国民年金任意加入者の未納期間の合算対象期間への参入
(1)施行日(昭和61年4月1日)前の期間の合算対象期間(61年改正法附則8条5項の改正)
⇒旧国民年金法による任意加入被保険者(厚生年金被保険者・受給権者・受給資格期間ある者の妻、平成3年3月31日までの学生など)が任意加入したものの保険料を納付しなかった期間については、任意加入しなかった期間と同様に取扱い、合算対象期間とする。
(2)施行日以降の期間の合算対象期間
⇒新国民年金法による任意加入被保険者(海外移住者など)が任意加入したものの保険料を納付しなかった期間についても、同様とする。 
 すなわち、
・20歳から60歳までの任意加入期間中に保険料の納付がなかった期間は、任意加入しなかった期間と同様に、合算対象期間とする。

7.4 障害年金の額の改定請求のための待機期間
  障害の程度が変わつた場合の年金額の改定(国民年金34条3項の改正)
 「前項の請求(受給権者による額の改定の請求)は、障害基礎年金の受給権者の障害の程度が増進したことが明らかである場合として厚生労働省令で定める場合を除き、
 当該障害基礎年金の受給権を取得した日又は1項の規定による厚生労働大臣の診査を受けた日から起算して1年を経過した日後でなければ行うことができない」
⇒「障害基礎年金の受給権者の障害の程度が増進したことが明らかである場合として厚生労働省令で定める場合を除き」を追加。
 障害厚生年金についても同様の改正。これにより、
・障害の程度が増進したことが明らかであると確認できる場合は、受給権を取得した日又は大臣診査を受けた日から1年経過まで待たなくても、年金額の改定請求が可能に 。

7.5 障害特例の場合の特別支給の老齢厚生年金の支給開始
 障害者の特例(厚生年金保険法附則9条の2の5項の新設
 「次のの各号のいずれかに該当するときは、老齢厚生年金の額の計算に係る特例(障害特例)の請求をすることができる。この場合において、当該各号に規定する日に同項の規定による請求があつたものとみなす」

 @老齢厚生年金の受給権者となつた日において、被保険者でなく、かつ、障害状態にあるとき
 (障害厚生年金等を受けることができるときに限る)
 A障害厚生年金等を受けることができることとなつた日において、老齢厚生年金の受給権者で
  あつて、かつ、被保険者でないとき。
 B被保険者の資格を喪失した日において、老齢厚生年金の受給権者であつて、かつ、障害状態
  にあるとき(障害厚生年金等を受けることができるときに限る)
⇒従来は、障害特例に該当する場合でも、本人からの請求に基づき、請求月の翌月から特別支給の老齢厚生年金の定額部分が支給開始となっていた。 (請求が遅れた分、不利益となっていた)
 改正後は、
・障害特例の請求が遅れても、障害特例に該当した日(障害認定日以降であって、障害等級
 3級以上を受給できる状態にあるか、あるいはすでに受給していることが必要)の属する
 月の翌月分まで遡って、報酬比例部部員+定額部分が支給される。
・ただし、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢前に障害障害等級3級以
 上であったときは、支給開始年齢に到達した日の属する月の翌月分まで遡る。

8.その他の規定(保険料・その他)の改正
 交付の日(24年8月22日)から2年以内の政令で定める日から施行
8.1 免除期間の保険料
(1)法定免除者が前納した保険料(国民年金法89条の改正)
  「被保険者(3/4免除、半額免除、1/4免除の適用を受ける被保険者を除く)が次の各号のいずれかに該当(法定免除に該当)するに至ったときは、
 その該当するに至った日の属する月の前月からこれに該当しなくなる日の属する月までの期間に係る保険料は、既に納付されたものを除き、納付することを要しない」 
 申請免除(全額免除、3/4免除、半額免除、1/4免除)、学生納付特例についても同様の改正 
⇒免除(法定免除、申請免除、学生納付特例を含む)に該当した場合でも、免除該当期間の保険料
 については、従来は
 ・免除該当日前に前納していた保険料及び免除該当日前に納付した保険料は還付できなかった。
 ・遡って法定免除となった場合、納付していた保険料で結果的には免除期間中の保険料となってしまった分については、必ず還付されていた。
 改正後は、
・免除該当前に前納していた保険料は還付可能に。
・遡って法定免除となった場合、納付していた保険料が結果的には免除期間中の保険料となってしまった分については、申出により、還付ではなく、保険料納付済み期間とすることも可能に
 (ただし、免除該当日前に、前月分あるいは当月分を納付していた場合、その分に限って免除期間中の保険料とはみなされず、通常の納付済み期間となることは、従来通り)

(2)法定免除者による自主的な保険料の納付(国民年金法89条2項の新設)
 「法定免除の規定により納付することを要しないものとされた保険料について、被保険者又は被保険者であつた者から当該保険料に係る期間の各月につき、保険料を納付する旨の申出があつたときは、当該申出のあつた期間に係る保険料に限り、同項の規定は適用しない(保険料免除期間とはしない)」 
 すなわち、
法定免除該当者であっても、 将来の老齢基礎年金受給権の確保のため、申出により保険料を納付あるいは前納することができるように。

(3)申請免除による保険料の遡り免除(国民年金法90条の改正)
 「次の各号のいずれかに該当する被保険者等から申請があつたときは、厚生労働大臣は、その指定する期間に係る保険料につき、既に納付されたものを除き、これを納付することを要しない期間とし・・・」
 1号:当該保険料を納付することを要しないものとすべき月の属する年の前年の所得が、その者の扶養親族等の有無及び数に応じて、政令で定める額以下であるとき。 
⇒「前年の所得」から「当該保険料を納付することを要しないものとすべき月の属する年の前年の所得」に改正。 部分免除、学生納付特例も同様の改正
 従来は、「前年の所得」が審査基準であったので、前年の所得が確認できる直近の7月までしか、遡って免除申請できなかった。(免除期間は、7月から翌年6月まで。ただし、学生納付特例の場合は4月から翌年3月まで)
 この審査基準を、「免除してもらいたい月の属する月の前年の所得」で審査できるようにした結果、

・過去2年分の保険料について、所得基準を満足する限り、遡って免除申請できるように。

8.2 付加保険料の納付期間の延長
 国民年金法87条の2の4項の改正
 「付加保険料を納付する者となったものが、国民年金基金の加入員となったときはその加入員となった日に、前項の申出(付加保険料を納付する者でなくなる申出)をしたものとみなす」 
⇒「納期限までに納付しなかったときは、その納期限の日に」を削除。
 よって、従来は翌月末日までに本体の保険料を納付しなかった場合は、自動的に付加保険料の納付を辞退した者とみなされていた。 
 改正後は、
・付加保険料は、本体の保険料と同様に、過去2年分まで遡り納付ができるように。

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