社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


 平成24年度の年金額はこのようにして決まった。(年金額改定の仕組み)

1.国民年金法における改定
 現在の国民年金法による年金額は本来水準によるものと、特例水準によるものとがあり、どちらか額の大きい方を採用することになっている。
(1)本則による本来水準(国民年金法27条)
 「老齢基礎年金の額は、780,900円×改定率とする」
 ただし、保険料納付済期間の月数が480に満たない場合は、780,900円×改定率×所定の合算月数/480とする」    
・改定率
について、
@既裁定者(68歳以上の者): 当年度改定率=前年度改定率×物価変動率
 24年度値は 0.985×0.997=0.982
A新規裁定者(65歳から67歳までの者):当年度改定率=前年度改定率×名目手取賃金変動率。
 24年度値は0.985×0.984=0.969となるはずであるが、賃金の下落率が物価の下落率よりも大きいので、物価の下落率を採用
Bよって、既裁定者も新規裁定者も24年度は同じとなり、0.982(23年度よりも0.3%ダウン)  

 24年度の年金額(本来水準):
  満額の老齢基礎年金額は780,900円×0.982から 766,800円

(2)物価スライド特例措置による特例水準(平成16年改正法附則7条) 
 「満額の老齢基礎年金の額は、804,200円×物価スライド率とする」

物価スライド率について
 当年度物価スライド率=年金額の改定が行われた直近の年度の物価スライド率×同直近の年度水準と比較したときの物価下落率。
 改定が行われた直近の年度は23年度(その前は18年度)であり、24年度の前年(23年)の物価指数は23年度の前年(22年)よりも0.3%低下しているので、
 24年度値は、0.981×0.997=0.978(23年度よりも0.3%ダウン) 
 24年度の年金額(特例水準)
  満額の老齢基礎年金額は804,200×0.978から 786,500円(23年度は788,900円)

 よって

こうなる

・24年度の年金額は特例水準の方が高いのでこれによる。
・満額の老齢基礎年金額は 786,500円 (23年度よりも0.3%ダウン)
 その他の国民年金法による年金額、加算の額も 23年度より0.3%ダウン

2.厚生年金保険法における改定
 現在の厚生年金保険法による年金額も、本来水準によるものと特例水準によるものとがあり、どちらか大きい方を採用することになっている。

(1)報酬比例部分の本来水準(厚生年金保険法43条) 
 「老齢厚生年金の額は、平均標準報酬額×5.481/1,000×被保険者期間月数とする」  
 ただし実際には、乗率の生年月日による読替え、平均標準報酬額と平均標準報酬月額の使い分けがある。 

再評価率について
 平均標準報酬額、平均標準報酬月額を求めるためのもので、原則として名目手取り賃金変動率、
 すなわち、物価変動率×実質賃金変動率×可処分所得割合変化率によって毎年自動改定
  24年度値は 物価変動率=0.997、実質賃金変動率=0.989、可処分所得割合変化率=0.998から、0.984
 本来ならばこの値になるはずであるが、この名目手取り賃金変動率のダウンが物価変動率のダウンより大きかった(実質賃金が減った)ので、24年度の再評価率は物価変動率による0.997。
 (これに応じて、再評価率表の全数値が書き替えになる)
⇒再評価率が0.3%ダウンということは、それに基づく平均標準報酬額等も0.3%ダウンとなり、
 結局年金額も0.3%ダウン。
 24年度の報酬比例部分(本則による本来水準):
 7.125/1,000×平均標準報酬月額×平成15年4月1日前の被保険者期間月数 + 
 5.481/1,000×平均標準報酬額 ×平成15年4月1日以後の被保険期間月数
 ただし、乗率はいずれも生年月日読み替えあり。
 (23年度よりも0.3%ダウン)

(1') 定額部分の本来水準:(厚生年金保険法附則9条の2の2項1号) 
 「1,628円×国民年金法による改定率×被保険者期間の月数(当該月数が480を超えるときは480)とする」  
 ここで、1.628とは780,900円を480で割って求めたものである。
 改定率は国民年金法による。(24年度値は0.982)
 またこの定額単価には生年月日による読替えがあるが、その代わりに被保険者月数には、生年月日に応じて420から480の範囲で上限がある。  
 24年度の定額部分(本来水準):
 1,628(生年月日読み替えあり)×被保険者期間月数(生年月日による上限あり)×0.982
 
(23年度よりも0.3%ダウン)

(2) 報酬比例部分の特例水準(平成16年改正法附則27条)
 老齢厚生年金の額の計算方法には何種類もあるが、現在大部分の人において最も高額であろうと思われるのは、以下を考慮した起算方法(従前額保障に物価スライド特例措置を適用した もの)である。  
平均標準報酬月額、標準報酬額については、平成6年再評価率表による。 (その後の被保険者期間における報酬は平成6年時点に逆再評価)
・乗率は平成12年改正(一律5%カット)前の値
・平成6年度の賃金水準を12年度の賃金水準に換算するために、この間の物価変動を考慮して1.031を掛ける
・平成12年度以降の賃金、物価の変動に対しては、物価のみに反応する物価スライド特例措置による物価スライド率を適用 (24年度値は0.978)
  24年度の報酬比例部分(特例水準):
 {7.5/1,000×平均標準報酬月額×平成15年4月1日前の被保険者月数 +
 5.769/1,000×平均標準報酬額×平成15年4月1日以後の被保険者月数)×1.031×0.978
  ただし、乗率はいずれも生年月日による読み替えあり。
 (23年度よりも0.3%ダウン)

(
2') 定額部分の特例水準:(物価スライド特例措置による特例水準)
・定額単価は平成12年の満額の老齢基礎年金額である804,200円を480で割って求める。
・平成12年以降は、物価スライド特例措置による物価スライド率で改定 (24年度値は0.978)  

 24年度の定額部分(特例水準):
  1,676(生年月日読み替えあり)×被保険者期間月数(生年月日による上限あり)×0.978
 
(23年度よりも0.3%ダウン)

こうなる

・ほとんど大部分の者は、特例水準の方が高いので、24年度の老齢厚生年金額は23年度に比べて0.3%のダウン。
(万が一、本来水準の方が高い場合でも、23年度に比べて0.3%のダウン)
・障害厚生年金、遺族厚生年金についても、老齢厚生年金額の計算方法をベースにしているので、やはり23年度に比べて0.3%のダウン。
・その他の加給、加算についても同様に0.3%のダウン。

 
重要メモ 本来水準と特例水準の乖離について
@本来水準は平成16年度から計算するが、そのスタート値については、基準となる平成12年改正前(平成11年度基準)からの物価水準が合計で2.9%下落したので、これを完全自動適用すべきという立場にたつ。
 一方、特例水準では、平成12年度からら14年度までの物価下落率1.7%は、年金額の改定に反映させないという立場。
 そのため、平成16年度スタート時点で、1.7%の乖離がある。
Aその後、本来水準によれば、物価と賃金いずれの変動に対しても、原則として完全に反応することになっており、H21年度は年金額が0.9%上がった。
 しかし、それ以外の年度では結局は物価低下率に対応した自動改定となり、H18は-0.3、H22は-1.4、H23は-0.7、H24は-0.3で、H17年度〜H24年度の合計では、1.8%のダウン 
B一方、特例水準の場合は、賃金や物価が上がってもこれには反応せず、物価が下がった時のみ(しかも直前の改定があった年度よりも下ったときだけ、その下がり分のみ)反応するので、H18に-0.3、H23に-0.4、H24に-0.3で、H17年度〜H24年度の合計では結局1.0%のダウン 
Cよって、乖離は16年度時点からさらに0.8%拡大し、現在では2.5%となっている。