社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


 国民年金・ 厚生年金保険法における諸規定のうち 男女の区別があるものの例 
                                       R06.08.24
                               
 はじめに
・旧国民年金法は、昭和35年10月1日から施行され、36年4月1日から保険料の徴収等拠出制に関わる業務が開始された。
・旧厚生年金保険法は、その前身となる労働者年金法が昭和17年6月1日から施行された。
 その後29年5月に大改正が行われた。ここでは、旧厚生年金保険法とは、この改正時の法
のこととする。(ただし、その後も法改正は、現在まで続いている)
1 老齢基礎年金について
 支給要件(26条)  「老齢基礎年金は、保険料納付済期間又は保険料免除期間(学生等の納付特例による保険料を除く)を有する者が65歳に達したときに、その者に支給する。
 ただし、その者の保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年に満たない
ときは、この限りではない」
 まとめ 老齢年金の支給要件のほか、支給額、支給開始年齢等においては、男女差は見られないようだ。 基本的には平成29年7月までは、旧法をそのまま引き継いでいる。
 参考 旧法老齢年金の支給要件(26条)
 「老齢年金は、次の各号のいずれかに該当する者が、65歳に達したときに、その者に支給する」
 1号 保険料納付済期間(納付された保険料(保険料免除を含む)に係る被保険者期間を合算した期間)が25年
以上である者
 2号 昭和5年4月1日以前生まれの者の期間短縮期間に該当する者(いわゆる10年年金などがあった)。
2 (本来の)老齢厚生年金について
 支給要件(42条) 「老齢厚生年金は、被保険者期間を(1か月以上)有する者が、次の各号のいずれにも該当するに至ったときに、その者に支給する」
 1号  65歳以上であること。2号  保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間
が10年(H29.07.31までは25年)以上であること
 まとめ 老齢年金の支給要件のほか、支給額、支給開始年齢等においては、男女差は見られ
ないようだ。
 ただし、旧法では、支給要件、支給開始において、男女差が見られ、これが新法により解
消されたといえる。
 参考 老齢年金の受給権者(旧厚年年金保険法42条) 「老齢年金は、被保険者又は被保険者であったものが次の各号の一つに該当する場合は、その者に支給する」
 1号 被保険者期間が20年以上である者が、60歳(女子については、55歳)に達した後に被保険者の資格を喪失しとき、又は資格を喪失した後に、被保険者となることなく60歳(女子については、55歳)に達したとき。
 2号 40歳(女子については、35歳)に達した後の被保険者期間が15年以上(そのうち、7年6か月以上は4種(任意継続被保険者)以外の被保険者以外でなければならない)である者が、60歳(女子にあっては55歳)に達し後に被保険者の資格を喪失したとき、又は資格を喪失した後に、被保険者となることなく60歳(女子については、55歳)に達したとき。 
 参考 厚生年金保険法による老齢給付の旧法-新法間の切替
・新法施行日(S61.04.01)において60歳以上(T15.04.0以前生まれ)の者又は60歳未満であ
っても老齢年金の受給権を有していた者は、引き続き旧法の適用を受ける。
3.60歳代前半の老齢厚生年金関係 
 定額部分の支給開始年齢 (平成6年改正法附則19条、20条)
定額部分の支給開始年齢
  1号被保険者期間を有する男子
2号、3号、4号被保険者期間を有する女子
(平成6年改正法附則19条)
1号被保険者期間を有する女子
(平成6年改正法附則20条)
開始
年齢
 昭和16年4月1日以前  昭和21年4月1日以前  60歳
 昭和16年4月2日〜昭和18年4月1日  昭和21年4月2日〜昭和23年4月1日  61歳
 昭和18年4月2日〜昭和20年4月1日  昭和23年4月2日〜昭和25年4月1日  62歳
 昭和20年4月2日〜昭和22年4月1日  昭和25年4月2日〜昭和27年4月1日  63歳
 昭和22年4月2日〜昭和24年4月1日  昭和27年4月2日〜昭和29年4月1日  64歳
 
  
報酬比例部分の支給開始年齢(定額部分は支給されない者)
 1号被保険者期間を有する男子、
2号、3号、4号被保険者期間を有する女子
    (附則8条の2の1項)
 1号被保険者期間を有する女子
(附則8条の2の2項)

開始
年齢

 昭和24年4月2日〜昭和28年4月1日  昭和29年4月2日〜昭和33年4月1日    60歳
 昭和28年4月2日〜昭和30年4月1日  昭和33年4月2日〜昭和35年4月1日  61歳
 昭和30年4月2日〜昭和32年4月1日  昭和35年4月2日〜昭和37年4月1日  62歳
 昭和32年4月2日〜昭和34年4月1日  昭和37年4月2日〜昭和39年4月1日  63歳
 昭和34年4月2日〜昭和36年4月1日  昭和39年4月2日〜昭和41年4月1日  64歳

コメント
@旧法の老齢厚生年金は、男は60歳から(女は55歳)からの支給となっていた。これを基礎年金の支給開始年齢65歳に合わせるため、長い年月をかけて、少しづつ支給開始年齢をずらすことにした。(旧法における男女差の残骸がここに残っている)
A旧法の老齢厚生年金は資格喪失が条件になっていたが、現在ではこのよう要件はなく、被保者資格が続く間は、在職老齢年金による調整がなされる。
B旧法の老齢厚生年金は被保険者期間は原則20年以上が要件であった。現在、加給年金額や振替加算のときに使用される「満了者」とは、この20年からきているようだ。
C参考までに、旧法による加給は、振替加算の制度がないので、死亡するまで続く 。
4 遺族基礎年金について 
支給要件(37条) 「遺族基礎年金は、被保険者又は被保険者であった者が次の各号のいずれかに該当する(短期要件あるいは長期要件に)場合に、その者の配偶者又は子に支給する。
 ただし、短期要件(被保険者が死亡したとき、叉は国内在住で60歳以上65歳未満の被保険者でないもの)の場合は、保険料納付要件が問われる」
 まとめ
 37条において、妻の死亡については、H26.04.01以後に死亡した場合に限られる。
 それより前は、夫が死亡した場合に限られていた。(H24改正法附則8条) 
 よって、H26.04.01以後の死亡から、男女間の取扱い上の差異は解消されたといえる。 
 参考 旧国民年金法 
(1)母子年金の支給要件(旧37条)(S36.10.03改正)「母子年金は夫が死亡した場合において、死亡日の前日において、次の各号のいずれかに該当し、かつ夫の死亡の当時夫によって生計を維持した妻が、夫の死亡の当時、夫又は妻の子であって、18歳未満であるか又は20歳未満で別表に定める廃疾の状態にあるものと生計を同じくするときに、その者に支給する」
・死亡日において被保険者であつた者については、死亡日の属する月の前月までに、老齢給付の受給に必要な保険料納付済要件を満たしている。(死亡日において被保険者でなかつた者については、死亡日において65歳未満であり、かつ、死亡日の前日において老齢給付の受給に必要な保険料納付済要件を満たしている。
 まとめ 母子年金は、子ある妻のみに支給される、現国民年金法のH26.04.01改定前の妻に対する遺族基礎年金とほほ同様である。
・ただし、保険料納付要件は妻が満足する必要がある。
・夫によって生計を維持とあるが、夫は被保険者あるいは被保険者であったものでなくてもよい。また、金額の上限はないので、生計同一で同じ意味である。

(2)準母子年金の支給要件( 旧41条の2) (S36.10.31)追加 「準母子年金は、夫、男子たる子、父又は祖父が死亡した場合において、死亡日の前日において次の各号のいずれかに該当し、かつ、死亡者の死亡の当時その死亡者によつて生計を維持した女子が、死亡者の死亡の当時準母子状態にあるときに、その者に支給する。
 ここで、準母子状態とは、
・夫が死亡した場合に妻がいなくて、例えば、祖母が18歳未満の子や孫と、又は子の中の姉が18歳未満の弟妹や孫と生計を同じくしている状態
・男子たる子が死亡した場合、夫に妻がいなくて、例えば祖母が孫と、又は女子である子が孫と生計を同じくし、かつ配偶者がいない状態
・父又は祖父が死亡した場合は、例えは祖母姉が18歳未満の子、又は子の中の姉が18歳未満の弟妹と生計を同じくし、かつ配偶者がいないこと
 まとめ 準母子年金は、男に支給されることはない。
(3)遺児年金支給要件(旧42条)(公布時のまま)「遺児年金は、次の要件に該当する父又は母が死亡した場合において、その者の子であって、父または母の死亡の当時、父または母によって生計を維持し、かつ18歳未満の子)があるときは、その者に支給する。ただし、父または母の死亡の当時、その子と生計を同じくするその子の母又は父があるときは、この限りでない」
 まとめ 遺児年金は、現行の、子に対する遺族基礎年金とほとんど同じで、男女差はない。
 参考 国民年金法における遺族給付の旧法-新法間の切替
・死亡日が、新法施行日の前日(S61.03.31)までであるものは、母子年金、準母子年金、遺児年金とも継続支給
・死亡日が、施行日以降であれば、新法の遺族基礎年金が適用される。
5.寡婦年金
 支給要件(49条) 「寡婦年金は、死亡日の前日において死亡日の属する月の前月までの第1号被保険者としての被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年(註;H29.07.31までは25年)以上である夫(保険料納付済期間又は学生納付特例以外の保険料免除期間を1カ月以上有する者に限る)が死亡した場合において、夫の死亡の当時夫によって生計を維持し、かつ、夫との婚姻関係(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む)が10年以上継続した65歳未満の妻があるときに、その者に支給する。 
 ただし、老齢基礎年金または障害基礎年金の支給を受けたことがある夫が死亡したときは、この限りでない」
 まとめ 寡婦年金は、その言葉のとおり、妻にしか支給されない。
 以下の旧法時代をそのまま引き継いでいるといえる。 
 厚労省では、受給権発生年齢を現行の制限なしから60歳未満まで段階的に延長、その後は支給開始年齢を60歳から65歳に段階的に延長して、寡婦年金をなくすことを検討中。
 参考 旧法寡婦年金の支給要件(49条)
 「寡婦年金は、次の要件に該当する(註;死亡日の属する月の前月までの被保険者期間について、死亡日の前日において老齢年金の受給要件期間を満たす(25年以上))夫が死亡した場合において、夫の死亡の当時夫によって生計を維持し、かつ、夫との婚姻関係が10年以上継続した65歳未満の妻があるときに、その者に支給する。
 ただし、その夫が障害年金の受給権者であったことがあるときは、この限りでない。
注 死亡した日がS61.04.01以降であっても、旧法の老齢給付が適用される場合は、寡婦年金も旧法である。
6 遺族厚生年金
6.1 遺族の範囲
 遺族の範囲(59条) 「遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者で
あった者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって、被保険者又は被保険者であった者の死
亡の当時その者によって生計を維持したものとする。
 ただし、妻以外の者にあっては、次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする」 
 夫、父母又は祖父母については、55歳以上であること
 注 55歳以上で受給権が発生した場合であっても60歳に達するまでは若年停止。ただし、
夫の場合に限り、遺族基礎年金の受給権がある間は支給停止なし。
 まとめ 妻と、夫・父母・祖父母との取扱いの違いは、旧法時代から続いている。 ただし、旧法では死亡の当時60歳以上でないと受給権は発生しなかったが、新法では、55歳以上で受給権が発生し、60歳までは若年停止(ただし、夫の場合に限り遺族基礎年金の受給権がある間は若年停止はなし) 
 参考 旧厚生年金保険法の場合 (59条) 「遺族年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であった者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって、被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者によって生計を維持し、かつ、次の条件該当したものとする」
・妻については、40歳以上又は18歳未満の子のある妻、(ただし、40年5月の法改正により、妻についてはこの要件は廃止)
・夫、父母又は祖父母にあっては60歳以上あるいは障害等々級2級以上の状態にある者 (ただし、新法の施行時において、当時の衆議院で、夫、父母、又は祖父母については60歳以上を55歳以上(ただし、支給は60歳から)に修正された)
⇒これが現行までそのまま続いている
 参考 厚生年金保険法による遺族給付の旧法-新法間の切替
・死亡日が新法施行日(S61.04.01)以降の時は新法
・死亡日が(S61.03.31)以前のときは旧法。なお、死亡日が(S61.03.31)以前で、胎児出生が
(S61.04.01)以降であっても、旧法を適用(ただし、胎児の受給権は出生時に発生)
6.2 遺族厚生年金の失権
 失権(63条) 「遺族厚生年金の受給権は、受給権者が次の各号のいずれかに該当するに至っ たときは、消滅する」
5号 次のイ又はロに掲げる区分に応じ、当該イ又はロに定める日から起算して5年を経過したとき。
イ 遺族厚生年金の受給権を取得した当時30歳未満である妻が同一の支給事由に基づく遺族
 基礎年金の受給権を取得しないとき(一定の子がいないときなど):遺族厚生年金の受給権を取得した日
ロ 遺族厚生年金と、同一の支給事由に基づく遺族基礎年金の受給権を有する妻が30歳に到
  達する日前に遺族基礎年金の受給権が消滅したとき(受給権ある子がいなくなったとき): 
  当該遺族基礎年金の受給権が消滅した日
上記5号は(H19.4.1)の法改正により、追加された。
 現行ルールの確認
(1) 死亡時に遺族基礎年金の対象となる子がいない場合
・妻が死亡したとき、夫は、55歳未満では受給権は発生せず。55歳以上で受給権が発生し場合でも60歳まで若年停止。
・夫が死亡した場合、妻には年齢制限なく、受給権が発生するが、死亡時に30歳未満であれば、5年の有期年金
(2) 死亡時に遺族基礎年金の対象となる子がいる場合
・妻が死亡したとき、夫が55歳以上60歳未満であれば、遺族厚生年金の受給権は発生するが、若年停止となる(ただし、遺族基礎年金受給中は若年停止なし)
・妻が死亡したとき、夫が55歳未満であれば、遺族厚生年金は発生せず、子に発生。
・夫が死亡した場合、妻には年齢制限なく受給権が発生するが、30歳未満で子がいなくなれば、5年の有期年金。
 まとめ
 明確に男女で取扱いの差がある。
 厚労省では、被保険者の死亡時に60歳未満であれば、男女の区別、年齢の区分なく、受給権
を発生させ、いずれも5年の有期年金とする方向で、男女差をなくそうと(経過措置を含めて)
検討中と思われる。
6.3 中高齢の寡婦加算(62条) 「遺族厚生年金(長期要件により支給されるものであって、その額の計算の基礎となる被保険者期間の月数が240未満であるものを除く)の受給権者であ
る妻であって、
・その権利を取得した当時40歳以上65歳未満であったもの、
・40歳に達した当時、当該被保険者若しくは被保険者であった者の子で遺族基礎年金の遺族の範囲に該当する子(ただし、死亡後に子の加算の減額のいずれかに該当したことがあるも
のを除く)と生計を同じくしていたものが、65歳未満であるとき 
 は、遺族厚生年金の額に遺族基礎年金の額に4分の3を乗じて得た額を加算する」
注:65歳以降は、昭和31年4月1日までに生まれた妻であれば、経過的寡婦加算が支給され
る。 
 まとめ いずれにしても、中高齢の寡婦加算、経過的寡婦加算は、妻のみに支給されるもので
ある。名称からいっても明らかである。これは旧法時代も同じ。
 厚労省では、60歳未満の者の遺族厚生年金本体の5年有期化にともなって、あらたな有期の
加算を設け、中高齢の寡婦加算を廃止する方向で検討しているようだ。
 参考 旧法遺族年金における寡婦加算
・旧法遺族年金における寡婦加算とは、子のある妻あるいは子に対する遺族年金の場合において、加算対象の子の数に応じた加算がなされるが、これに加えて、子のある妻が、他の制度からの支援を受けないときは、加算対象の子の数に応じた加算(寡婦加算)がなされ、妻が60歳になると、加給対象の子がいなくても、子一人の場合と同じ額が寡婦加算される。
7.障害給付
 障害基礎年金、障害厚生年金、旧国民年金法による障害年金、旧厚生年金保険法による障害
年金、いずれもその性格上、法令上の男女間による取扱いの差異はなさそうだ。

      かえる