国民年金保険料を滞納すると差し押さえに

社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


国民年金保険料を滞納すると差し押さえに

 5月15日付読売新聞によると、「社会保険庁は国民年金滞納者のうち35万人に最終催告状を送り、納付に応じない人には財産差し押さえなどの強制徴収を行う予定」とある。
 今年2月分までの1号被保険者の保険料納付率が約67%で、このままだと19年度目標の80%には到底達しないことに危機感を抱いたらしい。
 この最終催告状送付については15年度から大規模に実施され、同年度には約1万人に送った。16年度は3万人に送付した結果、納付に応じたものが17,000人、財産差し押えになったものが110人であったという。17年度の対象者は17万人で、財産 指し差し押えは約3,000人と年々増加している。
 差し押さえがいいかどうかは別として、そもそも約3分の1の人が滞納しているのでは、国民皆年金とはとてもいえない。
 何しろ、保険料を2年間滞納のものが420万人(16年度末時点)もいるという。2年以上の滞納については時効成立で強制徴収もできない。
 どうしてそうなったのであろうか。
 国会議員の年金未納だけをマスコミが取上げ、それをまた面白がって皆んなで騒いでいるうちに、年金改革法が成立してしまった。我々一般市民にとって極めて重要な問題であ るべき年金給付と負担のあり方については、議論がどこかに消え去ってしまった。
 提案者にとっては、これほど大成功のシナリオは予想すらできなかった。 
 そして最近の雇用流動化がこれに拍車をかけた。そもそも第1号被保険者は自営業などが対象の年金というのは、今の時代ではウソに近い。
 会社や役所によって保険料が天引きされている人とその被扶養配偶者以外のすべての人が(正確には国内に住む20歳から60歳の人)が対象者なのだ。よって、勤務時間が短いパートやアルバイト、フリーター、学生、それらすら該当しないニート そして失業者・求職中の人などなどは、みんな1号被保険者である。保険料支払いの義務があるのに、それすら知らない人もいる。 
 さらに不幸なことには、「保険料を払うのは馬鹿げたことである」といった半分やけっぱちな 意見に喝采が送られるという、変な風潮になってしまった。
 不信、不満、誤解、無理解・・・いやな言葉ばかりだが、これらがつもり積ってしまったのだ。
 これは何とかしなくてはならない。
 前に書いた強制徴収手続きは年収がある程度以上の者を対象としている。いっとき500万円以上とかいわれていたが、やがては免除対象者以外はすべて対象になるらしい。支払い余力があるのに滞納を決め込む者には、強制執行もやむをえないであろう。
 高額所得の医者とか弁護士とか、あるいは年金を擁護すべき社労士にも滞納者がいるらしい。別に困らないから年金給付は不要という 事情があれば、受給のみを返上すればよい。保険料の納付は相互扶助(助け合い)の意味からしても国民の義務 としてお願いしたい。
 一方、どう転んでも払えない人はどうするか。
 こんな人に強制執行したところで仕方がない。社会保険庁ではこうした人でも、親などの世帯主に対して強制徴収するつもりらしい。
 そうならない前に、「親子間で保険料一時立替の契約」を各家庭内で交わすことをお勧めする。
 世帯主を含めてどうしても払えない場合には、免除制度がある。
 今年7月からは、全額免除、半額免除に加えて、「4分の1免除」や「4分の3免除」もスタートする。
 また、30歳前であれば、親の収入に関係なく「保険料の全額支払い猶予制度」もある。
 免除や猶予は滞納とはまったく意味が違うのだ。 滞納者には、年金はおりない。
 しかし、免除者に対しても、国が保険料の3分の1(近い将来2分の1になる予定)相当を負担している。よって、障害基礎年金や遺族基礎年金は満額出るし、60歳まで全額免除で通したとしても、国が負担した分だけは老齢 基礎年金が支給される。
 万が一、猶予期間中に障害者となったり、死亡したとしても、障害年金や遺族年金は満額出る。
 免除・猶予と何の申請もしないものぐさと滞納との間には雲泥の開きがある。
 滞納者が幸いにして安定した収入のある会社に就職できたときは、お祝いとして、滞納分を少なくとも1年は払って必ず穴を埋めておこう。そうすれば、会社に入ってすぐに災害にあっても、保険料納付要件を満足することになり、障害基礎年金や遺族基礎年金は満額出る。民間の生命保険や傷害保険に入るのは後でもよい。
 苦しいときでも希望を捨てずに何とか乗り切って、自分の年金をしっからしたものにしていく必要がある。
 国民年金保険料の徴収業務については、役所まかせにせずに、いろんな面白いアイデアを持つ民間にやらせてみようという「市場化テスト(モデル事業)」が17年度に引き続いて今年も 行われる。また、国民年金と国民健康保険とをもっとリンクさせようという案もある。すなわ年金保険料も税方式で徴収するとか、年金滞納者には国民健康保険の給付もストップさせるとかも検討中のようである。
 とにかく、皆んながいい知恵を出し合って、滞納問題を解決したいものだ。 


平成18年5月15日)

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