児童手当の拡充誰が決めた 少子化がわが国の一大問題になりつつある現在では、 「貧乏人の子沢山」という言葉にはなつかしささえ感じられる。何をかくそう 「Tomeさん」の家は典型的にこれであった。 朝鮮戦争が終わって日本周辺がやっと静かになった昭和28年、Tomeさんが小学校6年になったそのとき、同じ学校に4年生、3年生、1年生の弟がいた。それだけで はおさまらずまだその下に、皆が学校に行くのを指をしゃぶりながら見送っていた弟が1人いた。 新学期になると、教科書をそろえるのに大騒動。 同じであれば当然お下がりである。 友達から新しい教科書を借りてこさせ ると、お袋が真剣な目つきで、1年前の教科書と変わりないか、たんねんに1ページ1ページ調べていく。 目が釣りあがってくると、これはだめの証拠。やむなく新品購入 となる。 「うちの子供らには間に合わんかも知れんが、いずれは教科書無償の時代がくるやろう」 これがお袋の口癖であった。 皆んな貧しかったが、国も同じように貧しいことを 誰もが知っていた。 小中学生全員への教科書無償配布は、それから16年もたった昭和44年にやっと実現した。 それからさらに、35年以上過ぎた平成18年の3月31日、改正児童手当法が成立し、支給対象が現行の「小学校3年修了前まで」から「小学校6年修了前まで」に拡大となった。 所得制限も見直 されて、対象児童数は新たに約370万人増え、約1310万人に達すると、新聞は報じている。 支給額に変更はなく、第1子、2子 は月額5.,000円、3人目以降は1万円である。 年子に近い5人兄弟がいるかってのTomeさんの家では、月4万円となる。 当時の親父の数か月分の給料であろう。これに近い金額なら、お袋もさぞや大喜びだったであろう。 まだ88歳で健在であるゆえ、今度帰省したときに聞いてみよう。 多分言うだろう。「いまどき、5千円、1万円じゃ話にならんのう」 この児童手当法については、民主党も対案を出しており、次の総選挙(いつあるんだろうか?)の公約にもなっているらしい。 その概要は、「対象は中学校修了までで1人当たり1万6千円」 原則として親の所得制限はなく全員に支給、第1子、2子 、3子・・・・という差別も設けないなどとなっている。 これだと、Tomeさん一家の場合は8万円となる。 額が多いのは多いに結構である。 ところでこういう話には、どこからその金を持ってくるかという裏づけが必要である。 このたび成立した自民・公明案では、どうやらタバコ税の増税、つまり愛煙家から小学生を持つパパ・ママへの贈り物ということらしい。 一方、民主党案によると、多額の財源を必要とするので、「配偶者控除」と子供らの「扶養控除」を廃止、すなわち所得税の増税と引き換えということらしい。こちらの方は若干わかりにくいが、所得税は各人の所得に応じたもので、人によって増額の影響もさまざまである。少なくとも所得税を払っていない人には増税の影響はないし、低額納税者も影響は少ない。一方、児童手当は同一金額であるから、誰でも等しい恩恵を受けられる。この方が、所得再配分機能の効き目は大きいはずであると。 ここでは、難しい財源論を論じるつもりはない。ただ、このような両党の論戦は3月国会においてもあまり盛り上がらなかったし、マスコミも取り上げなかった。 何よりも、子供たちをもつ親の増額運動も盛り上がらなかった。要するに、多いに注目されることもなく、さしたる議論もなく決まってしまった。 あほらしい偽メール事件の影響がこんなところにも現れた。 給付と負担の話はこれからもいろんな場面で出てくる。 政府関係者は積極的に情報公開して国民に問いかけ、国民的合意形成に努めてもらいたい。マスコミも、何を取り上げるべきかをもっと勉強してもらいたい。 そして何より、我々国民はできるだけ多くの者が、できるだけ積極的に論戦に参加すべきである。
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