社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


 
 国民健康保険料の額の明示:最高裁判決下る

 70歳のある旭川市民が『国民健康保険料の金額を明示していない旭川市の条例は、憲法84条「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする(いわゆる租税法律主義)」に違反する』としてかねてから訴訟を起こしていた。
 これに対する判決が、3月1日に、最高裁大法廷で下った。
 保険料にも租税法律主義の趣旨が及ぶことを初めて認めたが、『同条例において、保険料の算定基準が明確になっているので、行政の恣意的判断が加わる余地がなく、よって条例は合憲』とし、訴えを退けたと報道にある。  
 Tomeさんも今は国民健康保険に入っているが、この保険料がどこにどう定められているかと聞かれると、すぐには答えられない。市によって算定方法や額そのものが違うから、なおさらやっかいだ。
 座間市の場合、詳細は第6話にゆずるが、座間市国民健康保険税条例において「保険料は全世帯一律額のほか、前年の所得、固定資産税、世帯内加入者数に応じた加算により決まる。所得にかかる保険料率は5.55%」とあるようだ。
 ちなみに所得とは、パートなどによる給与、駐車場やアパートからの収入、個人事業所の収入、遺産相続や株の譲渡収入などから一定の控除額を引いたもので、確定申告すると自動的に市町村にデータが送られていく。株で儲かったときに確定申告すると、保険料にまで影響が出たり、多額の遺産を相続すると保険料が跳ね上がることになる。 現役時代の健康保険では考えられないようなことが起きるのだ。
 ところで旭川市の条例をホームページで調べて見ると、保険料についてはわかりにくい算定方法は書いてあるが、肝心の料率は明示されていない。「市長は保険料率を決定したときは,速やかに告示しなければならない」とだけある。
 毎日新聞によると、70歳の原告の提訴前の年収は約90万円、それでも保険料は3万円程度取られていたようだ。生活が苦しい中で保険料率の根拠が示されていない、いつ上がるかもわからない、これでは生活設計ができないではないかと怒り、訴訟を決意したとある。早い話が、「いくら払えばいいかの分からない保険になんか、入る人はいない」ということである。
 弁護士に相談したが、相手にしてくれる人がいなかったそうだ。そこで、図書館に通って訴状の書き方を学び、市側の反論書面を読んでは勉強を重ね、1審では違憲判決を勝ち取ったのである。
 読売新聞に出ていた、最高裁判所裁判官15人が居並ぶ中にあって、原告はたった1人という大法廷の写真は異様な感じがした。「その意気やよし」である。
 判決の結果はともかく、一人の弁護士も助っ人にならなかったのはどういうことだろう。また、合憲判断は15人の裁判官全員一致だったそうだが、仙台地裁では「違憲」とした。このギャップは何ゆえか。
 また、「保険料にも租税法律主義の趣旨が及ぶ」というのも、わかりにくい判決である。国民健康保険は保険料ではあるが、保険税と称し、税と同じ扱いにしている自治体も多い。趣旨は及ぶというのはこれまでより踏み込んだ新判断とされているが、税なのか、税でないのか、明示はどこまで必要なのかはっきりしろといいたい。
 敗訴した原告の人は、「やるだけのことはやった」と意外とさばさばした感じであったとか。なぜかテレビコマーシャルに出てくる、にやっと笑って鉄棒の大車輪をするあの老人の顔を思い出した。
 「ええず(会津)弁」の渡辺恒三国会対策委員長の登場といい、若いエリート何するものぞと、いよいよ面白い世の中になってきた。
平成18年3月5日

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