無年金障害者問題 読売新聞によると、未加入を理由に障害基礎年金を受け取れないのは制度不備で憲法違反であるとし、年金不支給処分の取消しと2000万円の賠償を求めた訴訟の判決が2月22日に、広島高裁であった。 結果は、「立法者の裁量の範囲を超えない」として、原告側の逆転敗訴。 障害基礎年金を受給するには、障害状態になる原因に関連して初めて病院にいった日(初診日)に20歳以上65歳未満である場合は、その月の前前月までの1年間は保険料を全く滞納していないこと(又は20歳以降の全期間のうち滞納期間が3分の1未満であること、いわゆる保険料納付要件)が必要である。 納付要件とはいっても、保険料免除の承認を受けた、あるいは学生納付特例による納付猶予の届出をした期間は、滞納扱いとはならないのである。 この訴訟を起こした人の一人は、21歳の学生だった昭和63年6月に交通事故にあい、1級の重度障害者となったが、当時は国民年金に加入していなかったとある。 国民年金法を規定通りに適用すれば、保険料納付要件を満足していないので支給できないとなる。 ちなみに、初診日に20歳未満であれば、国民年金制度から排除されているため福祉型(保険料無拠出型)の「20歳前傷病による障害基礎年金」という年金が支給されるが、金額には差異がない。 又、初診日に65歳以上である場合は特例で任意加入した者に限られるが、保険料納付要件を満足することが難しくなる。 訴訟を起こしてまで主張しているのは、当時(平成3年3月まで)学生は任意加入であって国からは加入が強制されていなかった、学生で収入が少ないからといって学生納付特例の制度がなかったなど、制度に不備があったということらしい。 このように文章で書くと「少し虫が良すぎるのでは」という声も聞こえてきそうであるが、他方では、制度設計者側もきめ細かい配慮が欠けていたのではないかとも思う。 この問題に関連していえば、平成17年4月1日からは「特別障害給付金」という福祉制度ができて、1級の人には年間60万円、2級の人には48万円が支給されることになった。金額は国民年金より低いが、国側もひとまずゆずって是正措置を講じることにしたのである。 ただし対象者は平成3年3月までに学生であった人、昭和61年3月までに厚生年金などの被保険者の被扶養配偶者(今でいう国民年金3号被保険者)であった人に限られ、当時日本国籍を有していなかった人や、強制加入であったのに保険料を納付しなかった人は除かれる。 なお当然のことながら、当時でも任意加入していた人には、本来の障害基礎年金が支給される。 それにしても「Tomeさん」がかねてから思うに、国民年金という制度はその性格がきわめて曖昧というか、わかりにくい のである。 厚生年金保険法ではその1条において、「老齢、障害、又は死亡について保険給付を行なう」とあり、平たく言えば損をする人もあれば得をする人もあるが、被保険者と事業主が拠出した保険料総額の範囲内でお互いに助け合いましょうという保険制度である。 よって、加入したことのない人に給付する余地はない。 ところが、国民年金法(保険とは命名されていない)では、 「憲法25条2項の理念に基づき、老齢、障害、又は死亡に関して必要な給付を行なう」とある。 (参考までに、よくいわれる生存権は憲法25条でもその1項であって、国民年金のこの条文とは直接は結びつかない。生存権を労働条件の面で実現しようとするのはむしろ、労働基準法の方である) よって、なのか、しかしなのか、国民年金は無拠出の者には支給しないことを原則としつつも、セイフティネットとしての最後の砦の役割も期待されている。 それがためか、財源も税負担と保険料からなっている。 ただし、社会福祉制度としては、全額税負担による公的扶助(いわゆる生活保護法による扶助)も別個に存在しているので、話が少しややこしくなる。 問題が大きすぎて手に負えないところもあるが、誰がみても意見の一致を見れそうなのは、「無年金者を制度上でも実態上でもできるだけ減らすこと」である。 マスコミも無年金学生の問題だけでなく、国民全体の問題として、年金制度の重要さをキャンペーンしてもらいたい。 一部の裕福な国会議員や医者などに未納者がいると騒ぎ立ててもはじまらない。 自分で何とかできる人はモラルの問題は別として、早い話がどうでもいいのである。 国民年金についての理解が不足している人は非常に多い。われわれ社労士にも責任がある。 これまで国民年金にまったく目を向けてこなかった人でも、とにかく今すぐに保険料を払い始めて1年経過すれば、万が一障害状態になったときは、加入月数にかかわらず1級で年間約100万円、2級で約80万円が、一生涯支給されるのだ。 障害状態にならなくても、65歳になれば加入月数に応じた年金がもらえる。 こんなに有利な保険がほかにあるのだろうかと思う。 現在、40歳いや意欲のある人ならば45歳までの人であれば、ゼロスタートであっても間に合うのである。 過去の保険料を遡って徴収されるのではと本気で恐れている人に出会ったことがある。幸か不幸か、お金に余裕ができても時効の関係で、2年以上前の保険料を払いたくても、受け取ってはくれないのである。 金額が少なすぎて不満のある人は、国民年金基金もある。 行政側も給付内容を充実させることはもちろんのこと、国民にとってわかりやすい、親しみやすい年金制度になるように、情報提供、サービス、柔軟な法適用などのソフト面での改善について、もっともっと力をいれてもらいたい。 さらに遠い将来の目標としては、国民年金は全額税方式にして、無年金者を完全になくすことをめざすべきと思う。 これには財源確保の問題もあるし、現に保険料を努力して払ってきた人と余力があるにもかかわらず滞納し続けて来た不心得者を一緒にするのかという批判にも耐えられる移行プロセスの問題も、解決していかなければならない。 |
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平成18年2月23日
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