社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


 平成27年度の年金額はこのようにして決まった。(厚生年金保険法による年金額改定の仕組み)
                             
国民年金法についてはこちらを

はじめに:老齢厚生年金(報酬比例部分)の額の改定の仕組みは国民年金とは少し違うことに注意しながら、過去の経緯をおさらいしてみる。
2.厚生年金保険法による改定の仕組み(これまでの経緯を含めて)
2.1 原則
 老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額は、
 乗率×生年月日乗率×平均標準報酬月額×被保険者期間月数から求める。
 この場合の平均標準報酬月額は、過去の標準報酬月額をその後の賃金や物価の変動に応じて作成された再評価率表により再評価して求める。
 また、再評価率表は平成16年改正前までは、5年ごとの財政再計算のときに作り直す。
2.2 平成6年法改正による平成6年度から平成12年法改正直前までの年金額の改定方法
・平成5年度の財政再計算からは、過去の標準報酬月額は可処分所得スライド(手取り賃金変動率)に応じて見直すことになり、これをもとに平成6年度水準に評価(換算)するH06再評価率表が法定された。
 この再評価率表をもとに60歳裁定時の年金額を決定し、その後は毎年、物価変動率により年金額を改定してきた。
・この結果、平成12年法改正直前の年金額は、
 7.5/1,000×生年月日乗率×H06再評価率表による平均標準報酬月額×被保険者期間月数×1.031であった。
 ここで、1.031は平成6年から平成11年までの物価変動率の合計値(+3.1%)である。
2.3 平成12年(4月)法改正による平成12年度から平成16年法改正直前までの年金額の改定方法
(1)本来水準
@乗率の5%適正化:乗率を5%下げることにした。(7.5から7.125へ)
A財政再計算により、過去の標準報酬月額を平成11年度水準に評価するH11再評価率表が法定された。
 その際、65歳未満までは可処分所得スライド(手取り賃金変動率)で評価するが、65歳以後は物価変動率で評価することになり、受給者の生まれた年度毎に再評価率表の欄を設けることになった。
(2)従前額保障措置
 乗率の5%下げによって急激に年金額が下がることを防止するために、Bのような経過措置を設け、以下の額のうち多い方を実際の年金額とすることにした。
 A:12年改正後本来水準(H16改正前本来水準)
  7.125/1,000×生年月日乗率×H11再評価率表による平均標準報酬月額×被保険者期間月数
 B:12年改正前水準(H16改正前H06水準)
 7.5/1,000×生年月日乗率×H06再評価率表による平均標準報酬月額×被保険者期間月数×1.031
 ここで、1.031は平成6年から平成11年までの物価変動率の合計値(+3.1%)である。
 また、このH06再評価率表はそれ以降改定されることはなかったが、平成6年以後の被保険者期間における標準報酬月額を平成6年時点に逆評価するために、この部分のみは毎年継ぎ足しされて、これまでずっと使用されてきた。

(3)平成12年度から16年度までの年金額の改定
・新規裁定時には、上記Aの12年改正後の本来水準とBの12年改正前の水準のうち高い方の年金額を採用し、その後は物価変動率で改定することになっていたが、実際には常にBの方が高かった。
・国民年金法と同じように、平成12年度から14年度までは、物価が下がったにもかかわらず、特例措置により、年金額の改定は行われなかったが、平成15年度、16年度は物価の下落により法定通り改定された。(合計で1.2%のダウン)
・平成15年4月以降の被保険者期間については、標準報酬月額ではなく標準賞与額も保険料並びに年金額の計算に組み入れることになり、この期間に対しては、乗率7.125は5.481に、7.5は5.769とすることになった。
 (このことは、同じ標準報酬月額であっても、年間賞与額が3.6か月分以上ないと、年金額は下がることを意味する)
 これに伴って、上記のA、Bは以下のように改正された。
 A:12年改正後本来水準
  7.125/1,000×生年月日乗率×H11再評価率表による平均標準報酬月額×被保険者期間月数×物価変動率
    (平成15年4月以降の被保険者期間に対しては、7.125は5.481、平均標準報酬月額は平均標準報酬額)
 B:12年改正前水準(H16改正前H06水準)
  7.5/1,000×生年月日乗率×H06再評価率表による平均標準報酬月額×被保険者期間月数×1.031×物価変動率
   (平成15年4月以降の被保険者期間に対しては、7.5は5.769、平均標準報酬月額は平均標準報酬額) 
・以上の結果、平成16年法改正直前の年金額は、従前額保障措置Bにより、
 
7.5/1,000×生年月日乗率×H06再評価率表による平均標準報酬月額×被保険者期間月数×1.031×0.988
 
(平成15年4月以降の被保険者期間に対しては、7.5は5.769、平均標準報酬月額は平均標準報酬額)

2.4 平成16年(10月)法改正による年金額の改定法
(1)基本方針
@再評価率表を5年に一度の財政の再計算のときに作り直すのではなく、毎年、次のようにして再評価率を求めて自動的に書き換えることに。
 新規裁定者(実際には68歳到達前まで):原則として、名目手取り賃金変動率により改定
 既裁定者(実際には68歳到達以降)  :原則として、物価変動率により改定
 基本的には国民年金法による改定率の改定方法と同じであるが、改定率ではなく再評価率である。
 また、改定率の場合は前年度改定率×当年度の名目手取り賃金変動率(あるいは物価変動率)により求めるが、再評価率の場合は前年度の再評価率表の全数値に再評価率をかけて求める(一部の欄は除く)
Aマイクロ経済スライドの導入
 国民年金法と同じ仕組みにより、財政が特に厳しい期間として政令で定められた調整期間中の再評価率は、@による再評価率×マクロ経済スライド調整率とする。

(2)実際の年金額の改定方法
 実際には、上記による本来水準を含めて、以下の3つの中で最も高い年金額を採用することになった。
A:平成16年改正後本来水準(いわゆる改後H16水準)
 平成11年再評価率表を受け継ぐ形で、H16再評価率表が法定され、これに伴い、前記Aの12年改正後本来水準は、下段枠内のAのように改正された。
 なお、平成17年度以降は、H16再評価率表ではなく当該年度のH○○再評価率表による。
B:従前額保障水準(いわゆるH16改正後H06水準、略して改後H06水準)
 前記Bの12年改正前水準(H16改正前H06水準)の基本的な考え方を受け継いで、下段枠内のBのように改正された。
 なお、平成16年度の従前額改定率は1.001とし、1.031×0.971(平成12年度から16年度までの実際の物価下落率の合計値2.9%)から求めた。
 (この従前額保障水準は、平成12年度から14年度までであっても、物価が下落したのだから保障額もダウンすべきという立場にたっている)
 平成17年度以降の従前額改定率は、既裁定者の改定率(原則として物価変動率)により毎年改定する。(物価があがっても改定する)
C:物価スライド特例水準(いわゆるH16改正前H06水準、略して改前H06水準) 
 16年法改正直前の年金額を保障するために、国民年金法と同様の考え方により、下段枠内のCのような物価スライド特例水準を導入した。
 ここで、平成16年度の物価スライド率は国民年金法と同じく0.988とし、それ以降も国民年金法と同じく、毎年の物価変動率に応じて、下げ方向でのみ改定する。
2.5 平成16年度から26年度までの年金額の改定
 毎年、再評価率表、従前額改定率、物価スライド率を法定通り改定して、以下の中で最も高い年金額を採用する。
A:本来水準(改後H○○水準)
 7.125/1,000×生年月日乗率×H○○再評価率表による平均標準報酬月額×被保険者期間月数
  (15年4月以降は、7.125は5.481、平均標準報酬月額は平均標準報酬額)
B:従前額保障水準(改後H06水準)
 7.5/1,000×生年月日乗率×H06再評価率表による平均標準報酬月額×被保険者期間月数×従前額改定率
 (15年4月以降は、7.5は5.769、平均標準報酬月額は平均標準報酬額)
C:物価スライド特例水準 (改前H06水準) 
 7.5/1,000×生年月日乗率×H06再評価率表による平均標準報酬月額×被保険者期間月数×1.031×物価スライド率
 (15年4月以降は、7.5は5.769、平均標準報酬月額は平均標準報酬額)
 
 この結果、ほんの一部の例外を除いて、ほとんどすべての年度、すべての者に対してCが最高額であった。
 国民年金法と状況は同じで、本来水準が特例水準を追い越すまでにはなかなか至らないことから、政府はこの乖離を解消するために、平成25年10月に1%、26年4月に1%程乖離が縮まるように、物価スライド特例水準を強制的に下げることにした。
2.6 平成27年度の年金額
@国民年金法における改定率と同じようにして、新規裁定者、既裁定者のマクロ経済スライド調整後の再評価率は1.023×0.991=1.014となり、本来水準Aが物価スライド水準Cを上回ることになり、物価スライド水準Cは廃止となった。
Aこれにより、平成27年度の年金額は、本来水準A(ただし、昭和11年度(12/04/01)以前生まれの者など一部例外的に本来水準が従前額保障水準Bに及ばない場合は、従前額保障水準B)によるものとなる
 
本来水準による場合の27年度の年金額は、26年度の本来水準の年金額に比べて1.4%高い
Bただし、26年度に実際に支給された物価スライド特例水準と比較しようとすると、話が少し複雑になる。
 実は、新規裁定者と既裁定者とで本来水準の年金額は異なるのである。(今までは、物価スライド特例水準の陰に隠れていて見えなかった)
 新規裁定者と既裁定者による再評価率の相違について
@平成16年度出発点として法定された再評価率表
 平成16年度において、昭和12年度(12/04/02)以降生まれの者は、平成16年度において67歳未満であるから、新規裁定者として、物価変動分ではなく賃金変動分の13年度平均値(前々年度である14年度から12年までの平均値)で再評価率表が作成された。(昭和11年度(12/04/01)以前生まれの者よりも少なくとも0.4%は高い)
A平成17年度の再評価率表
 再評価率は新規裁定者が1.003、既裁定者は1.0であった。(国民年金法においては、新規裁定者の改定率は1.003ではなく、法律により1.0とされた)
 昭和13年度(13./04/.02)以降生まれの者は、平成17年度において67歳未満であるから、その再評価率は物価変動分ではなく賃金変動分の14年度平均値(前々年度である15年度から13年度までの平均値)である1.003であった。(昭和12年度生まれの者よりも0.3%高い)
 つまり、平成17年度における物価スライド特例水準と本来水準(あるいは従前額保障水準)との乖離は、実際のところは
 昭和11年度(12/04/01)以前生まれの者:1.7%(本来水準よりも従前額保障水準の方が高い者に対しては、従前額保障水準との乖離が1.7%)
 昭和12年度(12/04/02から13/04/01まで)生まれの者:1.3%
 昭和13年度(13./04/.02)以降生まれの者:1.0%
B平成18年度以降は新規裁定者と既裁定者の再評価率は同じであった(従前額保障改定率も既裁定者の再評価率と同様の動きであった)ので、上記の傾向はそのまま平行移動されて、平成25年度における両水準の乖離は、
 昭和11年度(12/04/01)以前生まれの者:1.5%
 昭和12年度(12/04/02から13/04/01まで)生まれの者:1.1%
 昭和13年度(13./04/.02)以降生まれの者:0.8%
C平成26年度においては、本来水準が0.3%上がったので、物価スライド特例水準を0.7%下げることにより、両水準のギャップを強制的に1%縮めることにした。
 ところがこのままだと、昭和13年度以降生まれの者だけは、本来水準の方が高くなる(この年代だけマクロ経済スライドを発動する)という問題が発生したので、この年代だけ、再評価率は0.3%アップではなく、0.1%アップとした。
 よって、26年度における両水準の乖離は
 昭和11年度(12/04/01)以前生まれの者:0.5%
 昭和12年度(12/04/02から13/04/01まで)生まれの者:0.1%
 昭和13年度(13./04/.02)以降生まれの者:0.0%
D平成27年度の年金額が26年度にくらべていくら上がるかというと、 
 平成27年度の老齢厚生年金額(報酬比例部分)は26年度にくらべていくら上がるか
 本来水準同士(あるいは本来水準よりも従前額保障水準の方が高い者に対しては、従前額保障水準同士)の比較では1.4%アップのところ、26年度の物価スライド特例水準と比較すると、
 昭和12年4月1日前生まれの者:0.9%アップ(乖離が0.5%であったため)
 昭和12年4月2日以降13年4月1日まで生まれの者:1.3%アップ(乖離が0.1%だけであったため)
 昭和13年4月2日以降生まれの者:1.4%アップ(すでに乖離は解消されていたため)
 ただし、再評価率の効果は当該年度よりも4年以前の厚生年金被保険者期間に対して反映されるため、厚生年金の被保険者期間が直近の数年間であるなど、直近の期間のウエイトが大きい場合は、上記の数値とは異なる場合がある。
 27年度の厚生年金給付に関するその他のまとめ
 
平成27年度の特別支給老齢厚生年金の定額単価、加給年金額、配偶者特別加算、中高齢寡婦加算などは本来水準によるもので、27年度の国民年金法改定率0.999により算定する。
 26年度の本来水準の額に比べて14%高い。
 なお、26年度に実際に支給された物価スライド特例水準と比較すると0.9%高い。(改定率の場合はこれまでのところ新規裁定者、既裁定者による差はないので、全員に対してそうなる)
 たとえば、
 定額単価:1,628円×生年月日による乗率×0.999 (1,676円×生年月日による乗率×0.961)
 加給年金額(配偶者及び2人目までの子):224,500円 (222,400円)
 加給年金額(3人目以降の子) :      74,800円  ( 74,100円)
 昭和18年4月2日以降生まれの配偶者加給+特別加算 390,100円 (386,400円)
 中高齢寡婦加算 : 585,100円 (579,700円) 
 ここで、( )内は26年度の物価スライド特例水準による額。