被用者年金の一元化により、老齢・退職年金はこうなる  

社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


 被用者年金の一元化により、老齢・退職年金はこうなる  

  平成27年10月1日より、共済年金制度が厚生年金制度に統合される。
 ここでは、過去に共済年金の組合員等であった期間を有する年配の人を雇用するという実践的な場面を想定して、老齢・退職に関わる年金がどう変わるのか検討してみたい。(まだ経過措置を定める省令・政令が確定していないようで、現段階では期待と推測によるところもある。確定次第、逐次書き直していくことにする)

第1章 これまでの年金制度統合にまつわる歴史
(1)船員保険法の厚年への統合
 船員保険法は、昭和15年に創設。
 昭和61年4月1日に、職務外の年金部門のみ厚生年金法に統合
 船員保険法に特有ないくつかの事項は、厚年法の中に取り込まれた。
・被保険者期間の特例:4/3倍、6/5倍ルール、戦時加算のルール
・支給要件の特例:35歳以後の船員保険の被保険者期間が一定年数以上
・支給開始年齢の特例:船員保険としての実際の加入期間が15年以上の特老厚
 の支給開始年齢(報酬比例部分と定額部分の同時給付)

(2)旧3公社(専売公社、日本電信電話公社、日本国有鉄道)の厚年への統合
・旧公共企業体職員等共済組合法を経て、昭和59年4月から国家公務員共済組合法に統合。
 民営化後も、JT共済組合、NTT共済組合、JR共済組合を設立して、国家公務員共済組合法の適用を受けていた。
・平成9年4月に長期給付についてのみ厚年に統合
・参考:日本郵政株式会社とその事業会社については、平成19年10月に民営化が実現したが、現在も国家公務員共済組合法の適用を受けている。
 一方、日本年金機構は機構発足(平成22年4月)時点から厚生年金を適用。

(3)農林年金(農林漁業団体職員共済組合)
・農林漁業協同組合、農林中金などの職員を対象に、昭和34年1月に厚生年金から分離する形で発足。その内容は、長期給付のみで、国家公務員共済組合法に準拠
・平成14年4月に厚生年金に統合
・統合後も平成24年3月までは、統合前期間に関わる各種手続きは、農林年金が窓口となって実施していた。

まとめ:
@統合前に受給権が発生した退職共済年金は職域加算を除いて、そのまま名称を引き継いで厚労省(旧社保庁を含む)から支給。
A統合後に受給権が発生した場合は職域加算を除いて、統合前期間を含めて、老齢厚生年金として厚労省(旧社保庁を含む)から支給。
B共済年金特有の制度である職域加算については、
・JRはなし
・JT、農林年金については、統合前の期間分についてのみ存続組合が支給
・NTTは厚生年金基金を設立、代行部分については厚労省より支給。代行返上後はNTT企業年金から支給

(4)私立学校教職員共済(参考)
・昭和29年1月に厚生年金保険から分離。(ただし、いまでも厚生年金に加入している私立学校、幼稚園などもある。
・平成10年1月に「共済組合法」から「共済法」に改組され、組合員は加入者、組合員期間は 
 加入者期間になったが、それ以外の内容は従前の国家公務員共済に準拠。
・在職老齢年金の仕組みは、私学共済加入中であれば、厚年法と同じ。 
 国家公務員、地方公務員共済組合員であるときは、同じ制度内とはみなされないので47 
 万円基準を適用
・そのほか、企業年金を行うことができるなど厚年法と似ているところもある。

第2部 厚生年金と共済年金の統合

0.基礎的事項の確認(話の出発点)
@一元化前に受給権のある年金の名前、金額等は原則としてそのまま引き継がれる。(ただし、年金額の改定、停止、支給停止等のルールは一元化改正後の厚生年金法による)

A一元化後に受給権が発生した場合は、原則として、年金の名前は○○厚生年金となる。(ただし、恩給期間を有する退職共済年金受給者が死亡した場合、一元化後であっても遺族共済年金となるなどの例外もある)

B被保険者期間の得喪確認、管理、その期間に関わる裁定(額の改定、支給停止などを含む)、支払の事務などは、以下の分類に応じて、統合前の保険者機関がそれぞれ行う。
 民間人被保険者は厚生年金1号被保険者 :年金機構が実施機関
 国家公務員である被保険者は2号被保険者:国家公務員共済組合連合会など
地方公務員である被保険者は3号被保険者:地方公務員共済組合など
 私学教職員である被保険者は4号被保険者:私立学校振興・共済事業団が実施機関
⇒統合前の各機関(組織)は存続したままである。
例 老齢・退職年金についていえば、
・一元化前に受給権が発生した年金については、老齢厚生年金(1150)は厚労省から、退職共済年金は各共済の保険者機関から引き続き支給される。
・一元化後に受給権が発生した年金については、原則として老齢厚生年金(1150、2号、3号、4号)となり、それぞれの被保険者期間に応じて、それぞれの実施機関から支給される。
・一元化前から特別支給の退職共済年金を受給している者も、65歳になると老齢厚生年金(2,3,4号)に名称が変わる。支給はそれぞれの実施機関からである。

B一元化後の窓口対応業務はワンストップサービス化される。
 お客様は原則として、年金事務所、各共済組合、私学事業団などどこにいっても、被保険者期間の一部がそこの機関にある限り、全体の受付け事務を行ってくれる(はずである)。
 一元化後に受給資格を取得する年金の請求先と支払い機関は補4を参照のこと。

1.共済組合員期間を有する60歳代前半の人を雇用する場合の注意点

(1)特別支給の老齢厚生年金の受給権について注意を
 老齢基礎年金の受給資格期間を満たし、支給開始年齢に到達しているものであって、厚生年金被保険者期間(1号、2号、3号、4号の合計)が12か月以上あること。
 ただし、被保険者期間の合算がいつ、どのような場合に行われるか、注意を要する。

ケース1:厚生年金被保険者期間、国家公務員共済組合員期間いずれも12か月未満である者(いずれも支給開始年齢は過ぎているとする、以下同じ)
・一元化前にこれを合計すると12か月以上ある場合は、27年10月1日、
・一元化後に合計で12か月になったときは、その時点、
 で合算が行われ、特老厚(1150と2号)の受給権が発生する。
注:12か月になる月は、被保険者期間中であってもよい。受給権発生時に、被保険者期間と年金額をいったん確定させ、それ以降の被保険者期間に対応する年金は退職時あるいは65歳時に増額改定となる。

ケース2:一元化前に、特別支給の退職共済年金(特退共)の受給権はある(12月以上)が、特老厚の受給権がない(12月未満)者にあっては、
・一元化前に厚生年金被保険者期間が1月でもある者は、27年10月1日、
・一元化後にはじめて1号になった場合は1か月が経過した時点
 で合算が行われ、特老厚(1150)の受給権が発生する。

ケース3:一元化前に特退共の受給権はあるが、厚生年金の被保険者期間が全くなく、一元化後も引き続き国家公務員である場合
・一元化1か月後(27年11月1日)に特老厚(2号)の受給権が発生する。
(ただし経過措置により、1か月経過時点での年金額の支給はなく、その後、退職したときに退職改定による特老厚(2号)の額を決定し、その時点から支給が始まる)

ケース4:一元化前に特退共と特老厚(1150)の受給権のある者で、一元化後に1号被保険者になった場合
・退職するまでは額の改定はない。(退職後に特老厚1150の増額改定)

注意:退職一時金の返還が必要な者が出てくる。
 共済組合員等であった者(NTT,JR,JT、農林共済を含む)で、退職時に退職一時金を受けた者が、厚生年金の受給権を取得し、退職一時金の対象となった期間を含む年金を受給するようになったときは、退職一時金を返還しなければならない。(補2を参照)

比較参考:被保険者期間を合算しない例
@長期加入者特例は、各号単独の被保険者期間が528月以上ないといけない。
A中高齢者の短縮特例:旧厚生年金法にだけしかなかったので、各号単独で所定の年数が必要である。
B定額分の年金(経過的加算)の頭打ち:各号毎に頭打ちを適用する。
⇒1150(1号)で480月、2号で60月の定額部分の年金(あるいは経過的加算)が支給されることもありうる。

(2)60歳代前半の在職老齢年金について
@一元化前の支給停止
特退共の支給停止:
・同一共済制度内(2号、3号特退共受給者が2号、3号被保険者になったとき、4号特退共受給者が4号被保険者になったとき):28万円基準で停止
・異なる制度(2号、3号特退共受給者が1号あるいは4号被保険者になったとき、4号特退共受給者が1号、2号、3号被保険者になったとき):所得制限(47万円基準)で停止

特老厚の支給停止:
 特老厚受給者が1号被保険者になったとき:28万円基準で停止

A一元化後の支給停止(原則)
 特老厚月額分+特退共月額分+総報酬月額相当額について、28万円基準で停止(年金額を合算して、従来からある厚年法の仕組みを適用)
 ただし、いずれの年金の月額部分も加給年金、職域加算等を除いた基本額部分のこと。
・激減緩和措置
 平成27年10月1日をまたいで在職している者については、原則とア、イのうち最小の額が支給停止額とする。
 ア:支給停止額の増分は、一元化前収入の10%にとどめる。
   支給停止額=一元化前収入×0.1+一元化前支給停止額
 イ:支給停止額の増分は、一元化前収入の35万円超過額にとどめる。
   支給停止額=一元化前収入-35万円(マイナスの場合は0)+一元化前支給停止額
 ここで、一元化前収入(正確には調整前老齢厚生年金等合計額)とは、(特老厚月額分+特退共月額分 - 一元化前支給停止額+総報酬月額相当額)である。

例 以下の者が、一元化時点をまたいで1号被保険者である場合
 特退共:12万円 (職域加算を除く)
 特老厚:2万円  総報酬月額相当額:28万円
Ans 一元化前
 特退共支給停止=(12+28-47)/2⇒0
 特老厚支給停止=(2+28-28)/2=1
 よって支給停止額は特老厚のみに発生し、1万円。
 一元化前収入(調整前老齢厚生年金等合計額)=12+2-1+28万=41万円 

Ans 一元化後
@ 原則:(12+2+28−28)/2=7万円
A 激減緩和措置
  ア:支給停止額は41×0.1+1=5.1万円
  イ:支給停止額は(41-35)+1=7万円
 よって支給停止額は@、ア、イの最小値である5.1万円、一元化後収入は、36.9万円 (実際にはこれに職域加算が加わる)
B 支給停止額の配分
 5.1万円を年金額に応じて配分する。
 (特老厚=5.1×2/14=0.7286万円、特退共=5.1×12/14=4.3714万円)
 
注1:平成27年10月1日を過ぎてから雇用すると、激減緩和措置が適用されないので、支給停止額が大きくなる可能性あり。(上記の例では1.9万円増)

注2:特老厚あるいは特退共の受給権があるにもかかわらず、退職してから裁定請求をしようとする人が多いが、裁定請求を遅らせると、年金額の精算が発生することになりかねない。 
上記の例で、特老厚の裁定請求をしないでいると、一元化後の停止額は特退共に対して4万円になるが、正しくは4.3714万円で、年金の過払い・返還義務が発生することになる。

注3:職域加算(一元化前期間に対応した部分)の支給停止については、 
ア 退職中(1号、2号、3号、4号いずれでもない)は全額支給
イ 在職中(1号、2号、3号、4号いずれか)である場合は、以下が想定される。(詳細は今後の政令による)
・2号と3号に関する職域加算は2号、3号いずれかの被保険者である間、全額停止
・4号に関する職域加算は4号に被保険者である間、全額停止
・1号被保険者である場合は全額支給。

 一元化により変更となるその他の主な事項
@在職老齢年金の支給停止月
 一元化前厚年:資格取得日が属する月の翌月から資格喪失日の属する月まで
 一元化後  :資格取得日が属する月の翌月から退職日の属する月まで
         (すなわち一元化前共済に合わせる)
A退職改定月
 一元化前厚年:資格喪失日から1か月経過した日の属する月から改定
 一元化後  :退職日から1か月経過した日の属する月から改定
       (すなわち一元化前共済に合わせる)
(適用例) H27年10月31日に退職した場合
・再就職せず
 在老適用は10月分まで(従来の厚年なら11月分まで)
 11月30日に退職改定を行い、11月分の年金から増額となる。(従来の厚年なら12月分から)
・同年11月30日にまでに再就職
 在老適用は10月分までで一端終了。退職改定はなし、
 12月分から新標準報酬月額相当額、旧年金額で在老の適用再開

B同月得喪の取扱
 厚年資格取得⇒同月喪失⇒同月に国民年金1号の場合
 一元化前厚年:厚年1か月、国年1か月(両方とも保険料納付義務発生)
 一元化後  :国年1か月のみ、厚年保険料の納付不要(一元化前共済に合わせる)
(適用例1) 27年11月5日にA社に就職して資格取得(それまでは国年1号)、同年11月20日にA社を退社し、国年1号に。
⇒厚年被保険者期間は0か月(保険料納付義務なし)、国年1か月(保険料納付義務あり)

(適用例2) 27年11月5日にA社に就職して資格取得、同年11月20日にA社を退社し、翌21日にB社就職で資格取得
⇒厚年被保険者期間は1か月(B社事業主のみに保険料の納付義務)

C一元化後に受給権を取得した年金の額は、100円単位ではなく1円単位。
 一元化前に受給権を取得した年金であっても、一元化後に額の改定(4月の自動改定も含む)が行われた時点で、1円単位になる。
D繰上げ、繰り下げは各号期間同時に行う。(女性の場合は、1号と2,3,4号とで繰上げ年数が異なる)

(3)女性を雇用する場合の支給開始年齢に注意
 共済組合員期間からなる女子の特老厚(2号、3号、4号)の支給開始年齢は、一元化後も男子と同じであって、従来と変わらない。
 よって、27年度中に60歳になる(昭和30年度生まれ)の女性は、60歳時に特老厚(1150)の受給権が発生し、62歳になったときに特老厚(2号)の受給権が発生する。(同年生まれの男子にあっては、62歳時に特老厚(1150と2号)の受給権が同時に発生する)

(4) 共済の特例(長期特例、障害者特例)該当者を雇用する場合
・一元化前に長期特例あるいは障害者特例該当者には定額部分(+加給年金)も支給されているが、この者を1号被保険者として雇用すると、一元化後は退職していないものとなる。
 よって原則から言うと、定額部分(+加給年金)は支給停止となる。(救済措置が講じられる可能性がある)

(5) 障害共済年金の受給者を雇用
 一元化後は、厚生年金の被保険者(1号、2号、3号、4号いずれか)になったとしても、在職老齢年金の適用はない(なくなる)。
⇒1号在職中は47万円基準での在老適用であったが、一元化後は全額支給。
 同一制度内在職中は28万円基準での在老適用であったが、一元化後は全額支給。

(6)特定地方公務員(元警察職員、消防職員など)を雇用する場合
 一定階級以下の元警察職員、消防職員等については、支給開始年齢にさらなる特例がある。(補5参照)
 特例対象者は、受給権を取得したとき(退職しているときは退職時)に特定の階級(警部、消防司令)以下で20年以上勤務年数があること。
⇒退職時の階級と勤務年数を確認する必要がある。

注意:その他の特例もあることに注意を、たとえば
・平成7年6月30日までに退職した自衛官、退職勧奨によって退職した一般公務員など
・JR.JT、NTT職員で統合時点(H9.4.1)より一定期間前に、退職勧奨により退職した者、退職に伴う繰上げ支給を請求できる者などは
 特例により60歳よりも前に特退共(定額部分を含む)の受給権が発生する場合がある。(現在も該当者がいるので要注意)

2.60歳代後半の人を雇用する場合の注意点

(1)老齢厚生年金の支給
 一元化前から受給していた特別支給の退職共済年金も、一元化後に65歳に到達したときは老齢厚生年金となり、各号の支払機関から、それぞれの分が支給される。

(2)在職老齢年金の仕組みによる支給停止
 老齢厚生年金(各号合算ならびに旧退職共済年金を含む)+総報酬月額相当額について、47万円基準で停止(年金額を合算して、従来からある厚年法の仕組みを適用)

・激減緩和措置
 平成27年10月1日をまたいで在職している者については、原則と前述のイ(35万円補償)のうち、小さい額を支給停止額とする。

(3) 配偶者加給年金
・1号、2号、3号、4号について、定額部分の支給開始年齢到達後の老齢厚生年金の被保険者期間(年金額の計算に使用されている被保険者期間)の合計が240月に至った(満了)時点において、生計維持関係がある配偶者に、配偶者が65歳に到達するまでの間、配偶者加給年金が加算される。
・上記において、加給対象配偶者が各号について受給できる老齢厚生年金の被保険者期間の合計が240月になった(満了)場合は、それまで支給されていた配偶者加給年金は支給停止(あるいは最初から加算なし)となる。
・本人、配偶者とも満了者で加給年金の加給資格がある場合は、どちらも支給停止となる。(どちらかが在職老齢年金の仕組み、基本手当の受給などにより全額支給停止されている期間中は、相手方の年金に加給される)
⇒期間の合算により、加給年金の加算側にまわる者が増える。
同じく、加給年金の加算対象配偶者からはずれる者も増える。
注1:1号から4号までの期間の合算は、原則として、一元化後に受給権が発生するときに行われる。(経過措置として、退職改定、離婚分割などがあったときも合算となる場合がある)
注2:一元化時点で65歳以上である者は、原則として期間の合算はない(単独で20年以上到達はありうる)

(3-1)加給年金の加算開始時点(満了でかつ定額部分の支給開始年齢に到達時点)
@1号期間が18年、2号期間が2年以上ある者が、一元化後に両方の年金の受給権が発生した 場合、その時点で満了となる。(原則どおり)

A一元化前に18年の特退共の受給権がある者が、一元化後に1号特老厚の受給権を取得し、退職改定で2年以上の年金額が確定したときは、その時点合算して満了となる。
 (一元化法附則21条「施行日前日に退職共済年金の受給権を有していたもの(計算の基礎となる月数が240に満たない者に限る)が施行日以後に老齢厚生年金の受給権を取得した者については、「被保険者期間の月数が240以上」とあるのは、各被保険者期間を合算して240以上とする」)

B一元化前に18年の特退共と2年以上の特老厚の受給権ある者、
・一元化後も引き続き1号であって、退職改定があったときに合算して満了。
・一元化後は勤務がない場合は、65歳到達時点で合算され、20年の老齢厚生年金が支給
 されるときに満了となる。
 (経過措置を定める政令案「施行日前に、退職共済年金(240 月未満のものに限る)及び老齢厚生年金(240 月未満のものに限る)の受給権を有する者が、以下に該当するときは、一元化法附則第21 条の規定(合算)を適用するものとする。
・当該老齢厚生年金について、施行日以後に第一号厚生年金被保険者期間に基づき退職改定が行われたとき

(3-2) 加給年金の支給停止
 一方、加給対象配偶者についても満了となる者が増えるので、注意を要する。
@夫は65歳以上で被保険者期間が20年以上ある老齢厚生年金を受給中。
 妻は現在60歳(昭和29年9月生まれ)で被保険者期間10年の特老厚を受給中であり、夫に配偶者加給年金の加算がなされている。
⇒この妻が9月に61歳となり、被保険者期間10年の特退共を受給できるようになるとしても、一元化前であるので、期間の合算はなく配偶者加給は65歳まで続く。(ただし妻が65歳になると、特老厚と特退共は老齢厚生年金になって期間が合算されるため振替加算はない)

A上記において、妻の誕生日が(昭和29年10月生まれ)であると、
 一元化後に、2号期間10年の特老厚の受給権が発生することになり、このときに期間が合算されて20年となるため、10月時点で配偶者加給は支給停止となる。
 ただし、経過措置を定める政令案「一元化前の老齢厚生年金又は障害厚生年金について、施行日以後に加給年金が加算されたときは、一元化後厚年法の加給年金の支給停止規定(合算による支給停止)を適用する」により、施行日前から加給されている場合は、65歳までは支給停止はなくなる可能性がある。(この場合でも、65歳からの振替加算はない)
⇒なお、この例に関して、妻が一元化前の9月に1か月分の繰上げ請求を行うと(老齢基礎年金も繰上げとなるが)、一元化前に特退共の受給権が発生するため、加給年金の支給停止を避けることができるとする説もある。

(3-3) 振替加算について
 上記と同じように、振替加算を受けられるか否かについては種々のケースがあり複雑な話となるが、一元化前に振替加算を受けている者は、65歳以上であるから、期間の合算は原則としてないので、単独で20年以上とならない限りは、振替加算は続くと考えられる。

(4) 加給年金が加算された老齢厚生年金の支給方法
 老齢厚生年金の基本部分は、1号、2号、3号、4号被保険者期間に応じてそれぞれ別の機関から支給されるが、加給年金は省令に基づく優先順位に従って、一つの期間から全額が支給される。
 在老の適用により、その号の年金額が全額支給停止となっても、他の号から1円以上の年金額が支給されるときは、その号から加給年金額の全額が支給される。

3.70歳以上の者を雇用する場合の注意点。

・厚生年金法における60歳台後半の在職老齢年金は平成14年4月1日から、70歳以上の者の在職老齢年金の仕組みは、その5年後の平成19年4月1日に施行された。
 ただし、昭和12年4月1日以前生まれの者は、各々の施行日において65歳以上、70歳以上であるため、適用がなかった。
・年金一元化に伴い、70歳以上の共済年金組合員等は強制的に資格喪失させるのに伴い、70歳以上であっても引き続きフルタイムで在職している70歳以上の者は、生年月日を問わず、47万円基準の在職老齢年金の仕組みを適用することになった。
・このため、一元化以降は、昭和12年4月1日以前生まれの者であっても、「70歳以降被用者該当届」を提出しなければならない。
この者に対しては、47万円基準の在職老齢年金の仕組みが新たに適用されるが、激減緩和措置として前記のイ(35万円補償)が適用される。 

その他の補足事項
補1 職域加算、職域年金について
@一元化前に年金受給権がある場合
 従前どおり、退職共済年金(障害共済年金、遺族共済年金も)の中で、職域加算額が支給される。
 特退共を受給中の者が、一元化後に65歳に到達したときは、老齢厚生年金という名前に変わるが、別途に退職共済年金という形式で職域加算額が支給される。

A一元化後に受給権が発生した場合
・一元化前の期間に応じた「旧職域年金相当部分」が老齢厚生年金の一部として支給される(実際に支給するのは、該当する機関からである)。
 給付乗率は、組合員期間が20年以上であれば、厚生年金相当分(報酬比例部分)の20%、20年未満の場合は10%)
 ただし、経過措置として、一元化時点で20年未満であっても、引き続いて在職していて、その期間を含めて20年以上であれば、給付乗率は20%となる。
・一元化後の2号、3号、4号期間については、別途保険料を積み立てることにより、退職後かつ65歳到達以後に「退職年金」が支給される(1号被保険者に対する企業年金に相当する)
 退職年金は半分が終身年金、残りが10年あるいは20年の有期年金又は一時金であり、65歳以降であっても2号、3号、4号在職中は支給停止となる。

補2 退職一時金について
 厚生年金と同じように、かっては保険料の掛け捨て防止の観点から、退職時に、納付した保険料に対応した退職一時金を支給する制度があった(昭和54.12.31に廃止)
 その後、年金を受給できるようになったとき、年金額の計算の基礎となる期間の中に、退職一時金の対象になった期間が含まれる場合は、以下の者は、受給した一時金に利子をつけて返還する必要がある。(返還することにより、その期間も含めた年金額を受給できる)

@退職時に、将来、期間の通算により年金を受給することを考慮して、年金用原資を除いた額を受給した者:全員に返還義務が発生
A退職時に、年金用原資を含めて全額を受給した者:その期間を含めると共済組合員期間が20年以上となり、通算せずに年金が受給できるようになる者のみ返還義務が発生。
⇒たとえば、昭和29年10月生まれの者が54年12月(25歳)のときにNTTを退職し、退職一時金を一部受けたものは、平成27年10月に61歳になり、特老厚の受給権が発生するとき、返還義務が発生する。
⇒遺族が、退職一時金の対象になった期間が含まれる遺族厚生年金、遺族共済年金を受ける場合も返還義務が発生する。

補3.恩給期間を含む共済年金については、一元化時点でその期間に関わる年金額は27%引き下げる(ただし、緩和措置あり)

補4 一元化後に受給資格を取得する年金の請求先と支払い((年金証書の発行)機関


ワンストップサービス
支給事由 請求先 支払機関
老齢・退職(特別支給、繰上げ・繰り下げを含む) ワンストップサービス  
   被保険者期間のある各機関
障害 初診日の時の機関  同左。(ただし、全体の金額は被保険者期間を合算して決定、300月保障はある)
死亡(短期要件) ワンストップサービス 死亡時の機関。障害年金受給権者の死亡の場合は障害年金の支給機関 (ただし、全体の金額は被保険者期間を合算して決定、300月保障もある)
死亡(長期要件) ワンストップサービス 被保険者期間のある各機関
(合算した上で全体の金額を決定し、老齢厚生年金との調整後、各機関の年金額に応じて按分)
未支給年金、離婚分割 ワンストップサービス 該当する各機関
 
脱退一時金 被保険者期間のある各機関  同左。(合算した上で全体の金額を決定し、各機関の月数に応じて按分)


補5 特別支給の老齢・退職年金の支給開始年齢(+は定額分)

生年月日 特定地方公務員(6年遅れ) 厚生男子(除く1号女子) 厚年1号女子(5年遅れ)
24.4.2から26.4.1 60歳+62歳 60歳 60歳+62歳
60歳+63歳
26.4.2から28.4.1 60歳+63歳 60歳 60歳+63歳
60歳+64歳
28.4.2から30.4.1 60歳+64歳 61歳 60歳+64歳
60歳
30.4.2から32.4.1 60歳 62歳 60歳
60歳
32.4.2から34.4.1 60歳  63歳 60歳
61歳
34.4.2から36.4.1 61歳 64歳  61歳
62歳
36.4.2から38.4.1 62歳 65歳 62歳
63歳
38.4.2から40.4.1 63歳 65歳 63歳
64歳
40.4.2から
42.4.1
64歳  65歳
 64歳
65歳