社会保険労務士福留事務所(Tome塾主宰者) 


 
 明治生まれのおばさんの年金

  熊本のおばが亡くなったのが1年半前。
 新婚早々で旦那が支那に戦争にいき、すぐに亡くなってしまった。それからが苦難の始まり。
 晩年は、老齢年金(当然ながら旧法による年金)が唯一の楽しみであったらしい。
  しかしこのおばちゃん、ハイカラなところがあった。なにせ、旦那は戦前ではあるが、都市対抗野球の選手。
 よって戦後まもなく、プロ野球が復活して川上や千葉が活躍し始めた頃から、このおばちゃん、ラジオを聞きながらなんと、スコアブックをつけて楽しんでいた。
 もちろん、私もスコアのつけかたを教わったものである。

 今年88歳で広島に一人で住んでいる私の母の姉さんである。
 その母から、電話があった。
 社会保険庁から、年金を返せと書類がきたという。
 
 過誤払い、未支給の年金、充当という、年金のことを勉強したい人にとっては格好の話題が天から振ってきたようなもんだ。

 おばさんが亡くなったのが、8月の24日。
 母はすぐに熊本へ行って葬式を済ませ、死亡届を出してきた。

 このあと数ヶ月して、戸籍謄本などの書類を用意して再度熊本へ行き、遺産相続の手続きも全部すませてきたらしい。遺産といっても、わずかな残金の郵便通帳だけ。通帳とお金は全部、熊本の甥っ子(私のいとこ)にやってきたという。

 しかし、8月と9月分の年金が10月15日に、死んだおばさんの郵便局口座に振りこまれていたらしい。素人だから、そんな細かいことまではみていない。
 振り込まれたことははやむをえない面もあるが、明らかに支給間違いであるから、政府に返さないといけない。
 よって母は、そのお金はいとこに渡したからこれに請求してくださいと書いて、社会保険庁に送り返せばそれで済む。
 実際に、母から転送されてきた書類には、いとこの名前と住所が書いてあった。
 
 しかし、話は少しややこしい。
 実は、8月分についてだけは、24日まで生きていたおばさんが受け取って良い年金である。
 早く送ってくれなかった政府が悪いのだから、この1月分に限っては、おばさんのかわりに、私の母(妹)が未支給の年金として改めて請求できる権利がある。(甥っ子、姪っ子ではだめなのだ)

 母からの電話を聞いて、早速、役所に電話した。
 母がいとこに請求してくれというのは訂正したい。母が間違い分を返還するから、未支給分の1ヶ月と相殺して、1か月分だけ返せばすむように手続きをしてくれと。

 担当官はよろこんだ。
 甥への返還請求と母への未支給年金の支給の手続きが、過誤払いの充当ということで一発で済むことになるからだ。

 国民年金が実質的にスタートしたのは昭和36年、その後、日本人であれば誰でもが年金で食えるようにとがんばり、年金額を大幅にあげたのは、田中角栄さんであったように思う。福祉元年といわれた頃の話である。
 
 もちろん、このおばさんが年金だけで食えたのではなく、そのほかの扶助のお蔭でもある。
 しかし、明治生まれの人にも年金は頼りにされていたということは間違いない。
 改めて感服した次第である。

平成19年2月16日

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